スピーチの目的と背景
- 目的:AIを使った民主主義の強化、特に「社会の分断」を乗り越えるための新しい仕組みと台湾の実践例を紹介。
- 背景:SNSやAIによる情報流通が、世界的に「分断」や「過激化」を生んでいることへの問題提起。
社会の課題:「PPM=Polarization Per Minute(分断度/分)」の増加
- SNSのタイムラインが「友人の投稿」から「おすすめ(For You)」に変わり、注目を集めるために分断を煽るAIが人間関係の間に介入。
- このAIは「怒りを通じて関与(Engagement)」を得るビジネスモデルを発見。世界中で共有されていた現実感が崩壊しつつある。
🛠 解決策:AIを「ブロード・リスニング」のツールとして使う
● Pol.is(ポリス)という台湾発のデジタル民主主義ツール
- 特徴:
- 返信・リツイートができないため、対立や炎上が起きない
- 「賛成・反対・パス」で意見に反応
- 対立意見をつなぐ”橋渡し的意見”がアルゴリズムによって上位に表示
- 左右の極端な意見に走らず、「上昇的(upwing)」に共創を目指す
- ビジュアライゼーション:
- 各参加者の意見をアバターで表示し、意見の「集合写真(group selfie)」として可視化
- 差異と共通点の両方が明確になる
実践例①:Uberとタクシー業界の対立(2015年)
- SNS上ではゼロサムの対立が激化していたが、Pol.isでは**3週間で9つの「橋渡し意見」**が浮上。
- 例:ピーク時の価格上昇はOK、オフピーク時の過度な割引は禁止 → 公正さと革新性のバランスを実現。
- 結果:対立が消えたわけではなく、「変換」された。全員が少しずつ満足し、誰も深く不満にならない結論へ。
実践例②:時差変更をめぐる2つの署名(2017年)
- 日本と同じ時差にしたい vs 現状維持 → 妥協案(+8.5)では誰も満足しない。
- 共通の根底にあったのは「台湾の独自性を強調したい」という意図
- ゴールドカード・ビザや国際会議開催といった代替案が提案され、対立が昇華。
実践例③:ディープフェイク詐欺広告への対策(2024年)
- 社会では「規制したくない」「自由を守りたい」という声も根強い。
- 既存の選択肢を提示するのではなく、**人々自身に選択肢を作ってもらう熟議型世論調査(deliberative poll)**を実施。
- 20万件にSMS → 数千人が希望 → 400人の代表的グループがAI支援で議論。
- 各グループが出した橋渡し的提案を「クロス・ポリネーション(意見の受粉)」し、全体へ。
- 例:未署名広告はすべて詐欺と見なす、損害はプラットフォームが補償、海外業者には「発信制限」など。
- 結果:85%以上の賛同 → 法整備 → 翌年には詐欺広告がSNSから激減。
国際展開と他国での応用
- ケンタッキー州ボーリンググリーン:地域差・政治的立場を超えて支持された10年計画の策定。
- カリフォルニア州:「Engaged California」で山火事対策など難しい課題でも市民から合意形成。
💡 学んだ2つの実践的教訓
1. リーダーはイノベーションを望むが、現場は慎重
- 実務現場(行政)は人手不足・リスク回避志向 →「リスクを減らし、時間も節約」できるテーマ選びが重要
- 既存のベンダーや大学が行っている調査に生成AIを使って、より高解像度の「集合写真」的な要約を提供
2. 代表性の確保が不可欠
- 自由参加のオープンな議論 → 有用だが偏りやすい
- → ダイヤモンドアプローチ:
- 第1段階:誰でも参加(SMS認証など)
- 第2段階:無作為・層化抽出で構成された「ミニパブリック」による深い熟議
AIとの関係:ガスかブレーキかではなく「ハンドルを握るのは誰か」
- AIはリーダーを置き換えるのではなく、道をより明確に示すナビゲーター
- 市民は「課題発見・価値の定義」に最適。政策化・実行は政治家の責任。
- 万能なAIモデル(シンギュラリティ)ではなく、「関係性を支えるコーチ的AI」が東アジア的発想
結びの言葉:デジタル=数位=多様性(Plurality)
- オードリー・タン氏の役職名「数位政務委員」には「デジタル」と「多様性」の両方の意味がある
- 最後の詩的なメッセージ:
「Internet of Things(モノのインターネット)」を、「Internet of Beings(存在のインターネット)」に。
「Virtual Reality(仮想現実)」を、「Shared Reality(共有現実)」に。
そして、
「The Singularity is near(特異点は近い)」という声が聞こえたとき、「The Plurality is here(多様性はここにある)」と応えましょう。



