1. 法律文書の“正解”はネットに落ちていない
ChatGPTは、インターネット上の情報を学習データとして生成されています。しかし、実務で使われている日本語の契約書の正確な文例や条文は、ほとんどが非公開です。そのため、AIが出力する契約書の文面は“それらしく”見えても、法的な正確性や実務上の有効性を欠く可能性が高いのです。
2. 条文の一文字が大きな違いを生む
契約書は、わずかな文言の違いが大きな法的影響を及ぼす文書です。たとえば、「支払期限を延長できる」と「延長できるものとする」では、形式は似ていても意味が異なり、責任の所在や解釈に差が生じます。AIにはこうした“行間のニュアンス”を読み解く能力に限界があるため、注意が必要です。
3. 契約文にも“バグ”が潜む
契約書は、ある意味でプログラムに似ています。条文の構成や条件の整合性が崩れると、思わぬ抜け穴が生じ、相手方に一方的に有利な内容となるおそれがあります。AIが生成した文案には、こうした“意図しないバグ”が含まれるリスクがあるのです。
それでも使いたいなら？安全な活用法
ChatGPTを契約実務に取り入れる際は、あくまで「補助的なツール」として限定的に使うことが前提です。以下のような場面での活用が推奨されます。
活用が適している場面
- NDA（秘密保持契約）など、比較的単純な契約のたたき台作成
- 条文の意味理解や表現の言い換え・要約
- 契約書の構成テンプレートの参考
- 契約法務の勉強や調査
使用を避けるべき場面
- 業務委託契約や売買契約など、重要な商取引
- 相手方から提示された契約書の法的レビュー
- 法務部門のない企業での丸投げ的な利用
- ChatGPTによる全文作成後、専門家の確認なしに即時締結するケース
特に最後の点は、生成された文案の確認が不十分なまま契約が成立してしまうおそれがあり、重大なリスクを伴います。
正しい活用のステップ
- ChatGPTで契約書のたたき台や構成案を作成する
- 専門家（弁護士や社内法務）によるレビューを受ける
- 指摘事項を反映し、内容の整合性を再確認する
こうした手順を踏むことで、AIのスピードと専門家の信頼性の双方を活かすことができます。
AIは強力な補助ツールではありますが、契約書のように高度な専門性と責任を伴う文書においては、全面的に頼ることは避けるべきです。
ChatGPTは「法務の代替」ではなく、「法務を補佐するアシスタント」として位置づけること。
それが、AI時代において契約と賢く向き合うための最適な姿勢だと言えるでしょう。
